高級住宅地に住む前に知っておきたい基本知識

高級住宅街の建築協定

美しい景観を守ってきた独自のルール

高級住宅街としての品格維持に一役買っているのが、美しい景観を守る建築協定です。建築協定によってさまざまな制限が設けられているからこそ、統一感のある美しい街並みが形成されています。国内を代表する高級住宅街を取り上げながら、それぞれの建築協定や高級住宅街としての歴史などについて見ていきましょう。

住宅街の建築協定とは

建築協定とは、土地の所有者全員の合意のもと、建築基準法などに加えて地域独自の建築物に関する決まり事を取り決める制度です。建築物の最低面積や構造、形態、デザイン・意匠などに関する一定の制限を設けることで、統一的な街並みが形成され、良好な環境保全・維持につながるというメリットがあります。協定に同意した土地は「建築協定区域」となり、土地の所有権や借地権などが移動した場合でも建築協定の効力が及ぶのが特徴です。

建築協定の基礎知識
「建築協定の要件」

建築協定は原則として関係する区域内の住民全員の合意のもと、「建築協定の区域」「建築物に関する基準」「協定の有効期間」「協定違反があった場合の措置」を定めた協定書を作成し、特定行政庁の認可を受ける必要があります。

建築協定の基礎知識
「運営委員会」

建築協定における運営委員会とは、協定の効力が及ぶ協定区域内の住民によって構成される組織です。運営委員会は協定区域内の建築行為に対して審査を行え、違反者が出た場合は違反工事の停止や是正措置の請求を行えます。

建築協定の基礎知識
「建築協定の変更・廃止」

建築協定を変更するには、土地所有者等の「全員」の合意が必要です。建築協定の廃止は土地所有者等の「過半数」の合意が必要となり、変更・廃止のいずれも特定行政庁の認可を受けなければいけません。

国内の高級住宅街の建築協定

田園調布

田園調布はどんな高級住宅街?

田園調布は東京都大田区にある高級住宅街で、高級住宅街といえば田園調布の名を思い浮かべる方も多いでしょう。田園調布は1丁目~5丁目から成り、高級住宅街のイメージとして語られるのは東急田園調布駅の西側にある田園調布3丁目・4丁目です。豪邸ばかりが建ち並ぶ高級エリアで、日本を代表する高級住宅街らしい光景が広がっています。

統一感のある美しい街並みや緑豊かで良好な住環境も田園調布の魅力です。都心から少し離れているのもあり、静けさのあるゆったりとした時間が流れています。

田園調布の建築協定

田園調布には「田園調布憲章」という建築協定が定められており、以下のような制限が設けられています。

  • 敷地は165平米を下回らないこと
  • 建物の高さは9m、地上2階建てまで
  • ワンルームタイプの集合住宅は不可
  • 敷地周囲には原則として塀を設けず、植栽による生垣を設置する
  • 塀を設置する場合の形状はフェンスまたは柵で、高さは1.5m以下…など

そのほかにも細かな基準が設けられており、田園調布の美しい街並みを守っています。

田園調布の歴史

田園調布は、日本資本主義の父ともいわれる実業家・渋沢栄一氏がロンドン郊外の田園都市をベースとした日本型田園都市を建設しようと田園都市株式会社を設立し、開発が進められたエリアです。

田園都市を開発するにあたって渋沢栄一氏の息子である渋沢秀雄氏が欧米の田園住宅都市を視察し、そこで学んだ開発理念や街区デザインが田園調布の街づくりに取り入れられています。1923年に多摩川台住宅地として分譲が開始され、日本を代表する高級住宅街としてその名を高めていきます。

六麓荘

六麓荘はどんな高級住宅街?

関西の高級住宅街として有名な兵庫県芦屋市のなかでも、別格とされる住宅街が六麓荘(ろくろくそう)です。

六麓荘は芦屋市の東北部に位置し、海抜200m前後の高台に広がっている高級住宅街です。大手企業の創始者やオーナーなどの富裕層が暮らす豪邸が建ち並んでおり、六甲の豊かな自然と調和するような街づくりが行われています。

日本で初めて無電柱化を行ったエリアで、街の美観を損ねる電柱や信号は設置されていません。また、道路は細いところでも幅が6mあり、ゆったりとした美しい街並みが形成されています。

六麓荘の建築協定

六麓荘では街の景観や品格を維持するため、ほかの高級住宅地と比べても厳しい「六麓荘町建築協定」が定められています。

  • 1区画の敷地面積は400平米以上であること
  • 個人の住宅を用途とする一戸建てのみ建築可
  • 建築物の高さは1階または2階建まで
  • 建築面積は敷地面積の3/10または4/10以下
  • 屋根の色は明度・彩度の色調を守って落ち着いた色合いにすること
  • 道路に面する囲障は見通しを妨げないフェンスまたは生け垣とすること
  • 敷地の4割以上(地区によっては3割)を緑地にすること
  • 工事施工時間は日曜・祝日を除いて8時~17時まで…など

これらの取り決めは自然と調和した豊かで静かな住環境を住民が一緒になって育むために設けられ、六麓荘の美しい街並みを守ってきました。けれど周辺地域のミニ開発の活発化により、これまでの法的強制力のない建築協定では限界を感じるように。六麓荘が守ってきた景観を維持するため、2007年に協定の一部が「六麓荘町地区地区計画」として条例化されています。

六麓荘の歴史

六麓荘は香港の九龍半島や香港島にある白人専用住宅街をモデルにして、1928年に開発が進められました。六麓荘という名前の由来は、当時の「六甲の麓に東洋一の別荘地を」というモットーからきているとのこと。海外渡航がまだ一般的ではない時代に何度も香港島へ足を運び、そこで学んだイギリスの街づくりの手法が取り入れられています。

六麓荘は開発直後から「六麓荘町内会」が組織されており、当時から独自の協定を設けて高級住宅街の環境・景観維持に努めてきた歴史があるのも特徴です。現在も新しい住宅の建築前には近隣住民を集めた説明会が設けられ、住民が主体となって美しい街並みを守るための活動を行っています。

披露山庭園住宅

披露山庭園住宅はどんな高級住宅街?

披露山庭園住宅は神奈川県逗子にある高級住宅街で、日本のビバリーヒルズとも呼ばれています。かながわの景勝50選にも選ばれた披露山公園近くの高台にあり、江の島や富士山、伊豆大島などを一望できる贅沢なロケーションが魅力。都心の高級住宅街では手に入らない、開放感を味わえます。

逗子マリーナや江の島、由比ガ浜、稲村ケ崎などの海にもアクセスしやすく、マリンスポーツを楽しみたい方にとっても魅力的な高級住宅街です。

披露山庭園住宅の建築協定

披露山庭園住宅は開発当初から景観を重視した街づくりが行われており、「逗子披露山庭園住宅地区建築協定」が設けられています。

  • 建築物の用途は一戸建専用住宅であること
  • 長屋建築住宅および共同住宅は建築不可
  • 建築物の建ぺい率は20%または40%、高さは8mまで
  • 境界の柵は生け垣が原則
  • 敷地内の空地は緑化に努める…など

新しく住宅を建てる際は、計画の段階から建築コンサルタントとの協議や住民説明会を経て、建築協定運営委員会から承認を得る必要があります。建物だけでなく、周辺の街並みに配慮した植栽および外構計画も重視されるのが特徴です。

披露山庭園住宅の歴史

披露山庭園住宅地は1968年にTBS興産の企画開発によって造成され、1971年に分譲を開始。当時は披露山庭園邸宅地と呼ばれ、南にある第1期分譲地は1区画1,000平米(建ぺい率20%・高さ8%)で販売されたそうです。

披露山庭園住宅地の名前のもとになっている披露山の由来は、源頼朝がこの山に御家人たちを集め、手柄者や献上された貢ぎ物を披露したことからついたとの一説があり。また、鎌倉時代には幕府の要人が披露山周辺を別荘地として好んで用いたとされています。