120年の町屋改装

120年近く伝わる京都の町屋を改装して住みたいと思っています。

質問者

10年前まで祖母が住んでいて空家になった町家を伝統的な雰囲気を壊さず改装して住みたいと思っています。大手ハウスメーカーやリフォームを得意とする設計事務所に相談しましたが、「この壁は取れない」とか「本格的にやると新築と変わらないくらい工事費がかかる」などと言われましたが、諦め切れずにいました。

先日HOPのホームページを見て京都でも建築をしているということで、『森を建てよう。─その家は、古くならずに深くなる』というページを目にしました。25年以上経っているという中にも現代的な雰囲気があり、その1枚の写真を見て感激しました。半ばマンションを購入しようかと思っていましたが、私たちの夢を叶えてもらえないでしょうか。

(京都・Sさん)

質問者

伝統的な建築を後世に残したいという思いに感銘

石出和博

Sさんからの依頼を受け、早速古い町家を見せていただきながら、この伝統を後世に引き継いでいきたいというSさんの真剣な思いに感激しました。

S京都や奈良の古建築に学んだ私にとって、このような歴史ある本格的な京町屋を解体修理する仕事は大変うれしく、素晴らしいことです。道路に面した出格子、虫籠窓で構成される代表的な京都の町家づくり、平面は間口4間半の表屋造で、玄関庭、中庭、通り庭(土間)、前室、奥の間などで構成され、通り庭には30センチメートル角の桧の大黒柱とデザインも技術も本格的な町家スタイルでレベルの高い職人技の結集でした。

S小さく仕切られた部屋を連続させ、広いLDKを確保することと、冬暖かい家にすることがSさんの希望。古い伝統建築に現代の機能を備え、新しい感覚の空間を創出することが求められました。ところどころ屋根から雨漏りがしていて、2階の床からさらに1階の床まで被害を受けていました。100年以上の木造なので、まず気になったのが、シロアリの被害と腐食による構造的な耐久性でした。

石出和博

家を長持ちさせたいという職人の知恵

床をはがして、束、土台、根太の確認を行いました。驚くことに、シロアリどころか全く腐食していません。まだ100年は持つのではないかというくらい完璧な状態でした。近年の日本の住宅の平均寿命は25年。ひどいものは10年から15年で土台が腐ったりしています。

何か仕掛けがあるだろうと思って調べてみると、床下の土が硬いのです。これはよく茶室建築の時、茶室回りの土間たたきや、犬走りの部分に使う三和土だとすぐわかりました。

三和土は各地の地場の土を使い、石灰とにがりを加えてたたきしめたもの。セメントのない時代の工法ですが、今は忘れられた土間の優しい風合い、ソフトな歩行感覚が得られます。これが床下の除湿作用を保ち、シロアリに対しても忌避作用があったのだと判明。木を、建築を少しでも長持ちさせたいという120年前の棟梁の思いやりに触れ、胸が熱くなりました。

伝統を大切にしつつ大胆なプランを

計画は、必要な柱を残しながら階段室、前室、納戸、奥の間の壁を取り、さらに通り庭に床組をして高さを合わせ、28畳のLDKを創出しました。居間の部分は、2階を連続させ14畳の応接室とし、上部の小屋裏部屋の一部を吹き抜けにしてダイナミックな空間にしました。

浴室、トイレは通り庭を抜けて外からのアプローチでしたので、全てを新しくすることと、中から廊下で行き来できるように改装することを提案しました。

歴史を刻んで黒光りしている柱や梁と、新しく加わるフローリングや珪藻土の塗り壁のハーモニーが、ご夫婦と共に新たな歴史を作り上げていくことで、この家は再び蘇るでしょう。

町屋
引用元:建築家+石出和博のハウスドクター診察室

編集チームのまとめ

日本の伝統を生かした改装プラン

建築後120年近い京町屋ということで不安はありますが、できれば修理して住みたいという依頼主。構造については先人の知恵によってシロアリ・腐食の被害を受けていなかったため、伝統を重んじつつ思い切った住宅プランを実現できました。もし大手住宅メーカーに依頼していたら、新築同様の凡庸な住まいになってしまいっていたかもしれません。この町家を作ったと職人も、住んでいたお祖母さんも、きっと喜んでいることでしょう。

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創業者 石出和博
【監修・スポンサー】
建築家
HOPグループ代表 CEO
石出和博
~Kazuhiro Ishide~

北海道芦別市生まれ、北海道産業短期大学建築学部卒、中堅青年海外派遣事業で渡米した米国の建築に刺激を受け、日本の伝統建築を学ぼうと帰国。1973年藤田工務店入社、宮大工の技術を学ぶ。1989年1級建築士事務所アトリエアム(株)を設立し、伝統住宅、茶室など多数の作品を発表。1996年林野庁の支援を受け国産木材を活用した産地直送の住宅供給システム、HOPハウジングオペレーションアーキテクツ(株)を設立、現在に至る。受賞歴、著書多数。