新築なのに強風の夜は家の揺れが気になって眠れません。
新築なのですが、風が吹くと3階の揺れが気になります。土地の地盤が悪いのかもとご近所に尋ねても、風が吹いていることさえわからないと言います。家を建てた業者に来てもらい、異常な揺れを認めてもらったまではよかったのですが、「10件に1件はこういうクレームが出るんですよね」と開き直ったあげく、少し神経質過ぎるとまで言われました。
結局、揺れを防ぐための提案を見積もり付きで持っては来ましたが、直るかどうか保証はしかねるといった調子。根本的な原因も追究しないまま、直る保証のない工事は承諾できないので保留にしている状態です。
この揺れの問題のほかにも、
●3階を歩くと2階のシャンデリアやサイドボードのガラス戸が揺れる
●3階で水を使うと水音とは違う、大きな音が2階の天井から聞こえる
●1階の廊下が異常に寒い
など、業者に相談してもいまだに直っていないことがあります。ぜひ診断と対策をお願いします。
(札幌市手稲区・Kさん)
地盤調査では問題なし、原因は建物と判明
このお話を聞いた時点で揺れる原因はいくつか考えられましたが、Kさん宅に伺う前に、地盤の正確な情報が必要と思い、私がいつも仕事をお願いしている会社に地盤を調べてもらいました。
すると、地下1メートルで19tの耐圧に耐えられ、地下2メートルになるとハンマーでも入っていかないような堅さで、この場所は建築物に適した地盤であることがわかりました。ですから、やはり問題は建物自体にあったわけです。
壁をはがしてみたら驚きの結果に…!
Kさんに図面を見せていただきました。しかし図面の枚数が少なく、建築上不備な点は見つけられません。そこで考えられるのが「筋交い」が適切に図面通りに入っていないのではということ。
こればかりは壁をはがしてみなければわかりません。日を改めてもう1度伺い、壁をはがしてみてびっくり。本来柱を固定すべき筋交いが柱と離れてしまっているのです。本来なら木と木をくい込ませて、さらに金物でとめる必要がある箇所も、積み木のように柱を重ねて、ただ「かすがい」で一ヵ所とめてある程度。釘打ちすべきところが、釘の代わりに、内装材を止めるのに使われる、ピンの機械打ちで止めている箇所も見られました。
また、屋根裏に使われている部材が細かいのも気になります。これでは家が揺れない方がおかしいです。
廊下の断熱材も基準以下の厚み
1階の廊下が異常に寒いということでしたので、こちらも壁をはがしてみました。すると、断熱を目的としたウレタン断熱材の吹き付けに均一の厚みがありませんでした。ウレタン断熱材は場所にもよりますが30~50ミリの厚さにするのが妥当。ところが廊下の部分は一番薄いところで、なんと5ミリ。あいた口がふさがりません。
図面や見積もり書に何ミリ使うかきちんと明記することが当たり前だと考えますが、こちらの業者の図面にも見積り書にも一切明記されていません。これでは、訴えられた時の逃げ道を最初に作っていると言われても仕方のないありさまです。
業者の提案は果たして正しいのか?
「3階を歩くと2階のシャンデリアなどが揺れるのであれば、3階の床に、例えば鉛でも入れて重たくすれば揺れなくなる」という冗談のような業者の話に、例えばではなく、具体的にどうしたら揺れなくなるのかと、Kさんが詰め寄ると、遮音パネルを床に貼ることを、見積付きで提案してきたそうです。果たしてどうでしょうか。
遮音パネルでは、音は防げても、クッション性のあるものですから、揺れ自体を解決することは難しいはず。やはりじゅうたんをはがして構造用合板を敷き直し、二重にするとだいぶ良くなります。コンパネを2枚敷いて、さらにじゅうたんを敷きたいと業者に主張してみるといいでしょう。
また「3階で水を使うと、2階で音がするのは木造アパートではよくあることだから、そう目くじらを立てることでもない」と業者にいわれ、ひどく立腹しているようですが、明らかにこれは水がパイプの中を流れる音ではありません。どこかズレて、こんな音をたてているようです。これも早急な手当てが必要ですね。
まずは保証の範囲内で改良を依頼するべき
約1年前に建てた家ですから、まだ保証の範囲以内です。1年点検を要求することをお勧めします。
Kさんは裁判に持ち込むことも考えているそうですが、大工さんの腕が良かった、悪かったで裁判にならないのと同様、揺れる、揺れないの問題になると解決はかなり難しいでしょう。裁判を起こしても、和解させようとする例をこれまで多数見てきました。和解となると全部折半。百万かかる工事の内50万は出さねばなりません。新築住宅なのにおかしな話です。
ともあれ壁をはがしてみて原因がはっきりした訳ですから、まずは業者にこのことを話して直してもらうことです。何を話しても感情を逆なでするような答えが返ってきて、業者とは口も聞きたくないとおっしゃっているKさんですが、今まで以上に自信を持って業者と打ち合わせをして、不備な点を改良してもらうことです。
ハウスドクターとしても専門的な立場で業者にアドバイスすることを約束しました。どうしても業者にやる気が無い時は、裁判もやむを得ない方法でしょう。
確かな業者を選ぶための目を養おう
コマーシャルというのは本当に大きな影響力を持つものだなと実感しました。Kさんはコマーシャルがあおるイメージに夢をはせ、結局望んでもいない貧乏くじを引く結果になったわけです。
しかし、早い時期に専門家に見てもらおうとしたのは正しい判断だったと思います。一般の方が家のことについて学ぶのは難しい部分もあるでしょうが、これからの家づくりは、いかに長い間愛着をもって住み続けることができるかなどを学習して、確かな目を養うことが大切。第2、第3のKさんにならないよう読者もしっかりと家づくりと向き合ってください。
編集チームのまとめ
家づくりは最初の業者選びが重要
新築なのに家が不自然に揺れたり、廊下が異常に寒いなどという不備を訴えたにもかかわらず、業者の誠実な対応を受けられなかった相談者。こういった事例は、もしかしたら明日は我が身かもしれません。業者の対応が悪いと疎遠になりがちですが、保証が付いているのですからそれをきちんと行使することが大切ですね。また、最初の業者選びが家づくりでは何より重要であることを痛感させられました。
建築家
HOPグループ代表 CEO石出和博
~Kazuhiro Ishide~
北海道芦別市生まれ、北海道産業短期大学建築学部卒、中堅青年海外派遣事業で渡米した米国の建築に刺激を受け、日本の伝統建築を学ぼうと帰国。1973年藤田工務店入社、宮大工の技術を学ぶ。1989年1級建築士事務所アトリエアム(株)を設立し、伝統住宅、茶室など多数の作品を発表。1996年林野庁の支援を受け国産木材を活用した産地直送の住宅供給システム、HOPハウジングオペレーションアーキテクツ(株)を設立、現在に至る。受賞歴、著書多数。
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アーキテクツ
現代的な先端の感性に伝統の様式美を調和させ、「100年経ってもさらに魅力を深めてゆく」美しい建築作品を生み出し続ける、気鋭の企業。
“森を建てる”をキーワードに、高品質の国産材にこだわり、乾燥技術から加工技術、建築までを協業化した、画期的な産地直送住宅供給システムを確立。建物に命を吹き込む建築を追求し続けている。